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高松高等裁判所 昭和35年(く)6号 決定 1960年7月04日

少年 A(昭一九・四・九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、要するに少年の本件非行の原因は、保護者である父が昭和三三年二月から約一ヵ年半程胸部疾患のため入院し、これに伴い家計の都合上母も勤めに出ていたため、或は昭和三五年二、三月頃は、父の勤務先の仕事が多忙であたつために、少年に対する監督が充分できなかつたことによるものであり、一方には、年長の共犯者にそそのかされて本件非行に及んだと窺い得る点がある。少年は家庭においては善良な性質なのであるから、家庭における指導監督によつて充分少年を更生させることができ、かつ、保護者としては今後家庭において厳重に指導監督をなすことを誓つている。かかる少年を中等少年院に送致する処分をした原決定は著しく不当であるというにある。

記録を調べると、少年の非行は、昭和三三年六月頃に始まり、同三四年四月頃までを一段階とし、この期間においては、主として共犯者B(昭和一八年六月一六日生)と共に犯した屋外における古鉄類の窃盗であり、この分については、同三四年九月一五日に高松家庭裁判所に送致されたが、当時において何ら適切な保護を加えられないままに、同三五年一月頃から同年三月二〇日までの間にC(昭和一八年一〇月二四日生)D(昭和一九年一一月三日生)E(昭和一九年一一月三日生)及びF(昭和一八年八月一一日生)らと共に商店の倉庫その他に侵入して多量の商品或は第二種原動機付自転車等を窃取するというように、その非行は悪質化しているのであつて、このような事実に加えて、少年調査票、鑑別結果通知書その他の記録によると、少年の盗癖或は罪悪感の欠除は、かなり固定化していると認められ、これが矯正には高度の指導監督を要するものと考えられる。ところで、少年に対する社会資源は、両親共に家庭外において多忙な仕事場に勤めている現況においては、両親の少年に対する愛情のみにては、少年の右のような性格を矯正することは至難と考えられる。もつとも、本件非行は、中学校在学中のものであつて、少年が昭和三五年三月に中学校を卒業しているから、今後適当な職場と監督者が得られるならば、或はその職場を通じて更生を期待することも考えられないではないが、その適当な職場もないし、反面、前記のように悪質化した性格を正してから、新しい職場に就かせて社会人として出発させる方が適当とも考えられる。

以上のようないろいろな点を考え、その他諸般の事情を綜合して考察すると、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は、むしろ相当であつて、不当なものといえない。論旨は理由がない。

その他記録を精査しても、法令違反、事実の誤認、処分の不当等の点について原決定を取消すべき事由は認められないから、少年法第三三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 石井玄)

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